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2024/02/04 16:37


 昨年の春、宮古島に一人旅をした時の話。
宮古島の透き通ったエメラルドブルーの海の中で最も美しい海に行きたいと思った私は、検索でヒットした伊良部島の渡口の浜に行った。この浜は宮古下地島空港から徒歩1時間ほどのところにある。本島からバスで移動、「渡口の浜入口」で降りて歩いて浜に向かう。南国のぬるい空気を浴びながら気持ちよく歩いていると、どこからか悪臭が漂ってきた。あまりにも臭いので口をタオルで覆いながら
 
「ちっ、せっかく気持ちよく歩いてたのに、この時間が台無しになるじゃんかよーーーどこから臭ってくるんだよ〜??」
 
と周辺を見回しながら歩く事数分、目の前に黒糖の搾りかすの残渣の山が現れた。山の大きさは都立武蔵野公園の「くじら山」くらい、それ以上高かったかもしれない。その山を見た私は、この島の黒糖産業の全貌を垣間見た気がした。誰も気がつかない、気にも止めないゴミ山と異臭。過疎地あるある問題。
 
私は現在、空の下合同会社で発酵生姜シロップを製造販売している。やるからには原材料が足りなくなるくらい売れる商品にするつもりで日夜開発と製造に取り組んでいる。売れれば売れるほど増える残渣をどうするか、頭を悩ませていた。自然栽培の生姜には人も自然も美しくする力がある!とか言ってるくせに、ゴミの山を作ってどうすんの?と、自分にツッコミを入る。ラベルに「人も自然も美しく」とか書いてあるのにダメじゃん。

 
発酵生姜シロップ → ジンジャービール → 堆肥 → 生姜

 

発酵生姜は乳酸菌、ジンジャービールは酵母菌、麦芽残渣を微生物の餌にして堆肥を作り、堆肥を畑に戻して一周する。自然栽培の生姜作りは連作をしないため、休作年には麦芽になる二条大麦を栽培することもでき、麦と緑肥の一石二鳥が得られる。

 

私は生姜の辛味と香りをビールにして市場に届けたい。世界中探しても見つからないほどのジンジャービール。口から鼻に抜ける生姜の甘い香り、喉越し良く食欲を刺激する辛味、ふくよかな苦味の後に残る圧倒的辛味。この辛味が癖になり、ついもう一本開けたくなる。揚げ物や肉との相性も抜群だ。

 

私は、頑張らなくても元気でいられる社会に生姜は不可欠な存在だと思っている。生姜は紀元前500年以上前から生薬として世界中で使われ、中世のヨーロッパでは羊一頭と生姜1ポンド(454g)が同じ価格で取引されていて、現在全ての漢方薬に生姜が使われている。韓国の研究者が2018年に出した論文には、線虫を使った実験で、長寿、高温耐性の向上などの効果も明らかにされている。細胞の酸化を低減し、活性酸素のバランスを調整する効果が高い生姜は、薬で治せない病気が増える現代、免疫力を高めるしかない時代に最も必要とされる作物だ。

 

しかし、農村の過疎化、高齢化に伴い、更にはコロナ以後の取引価格の暴落によって、生姜栽培を止める農家が増えている。年に一回の収穫は人海戦術で行うが、現場にいるのは年寄りばかりで若者の姿はほぼない。賃金が安い上に過酷な作業だから誰もやりたがらない。国内生姜消費量の約3割を輸入に頼っていて、現場にいる若者の多くがインドネシアやベトナムからの技能実習生だ。別に良い。そもそも慣行栽培の生姜は減れば良いと思っている私にとっては正直関係ない数字ではあるけれど、とはいえ全く関係ないわけではなく、根本課題は同じ市場価格が安いことにある。この根本を改善しない限り、国内生姜生産現場が活気つくことはないだろう。

 

物の価格が上がることにネガティブな消費者は多い。しかし、物の価格が安い国はそこで働く人々の賃金も安いことに思考を向けて欲しい。貴方が安いものを買い続ける限り、貴方は労働搾取の連鎖の中で生き続けるのだ。そして、そのマインドは血肉となって後世に受け継がれる。そんな未来にどんな希望があるというのだろうか。たかがビール、されどビール!私は労働者の燃料とも言える、働き盛りの多くが飲むビールに生姜を仕込むことで、活力に満ちた輝ける未来を創造したいと思っている。



過去の試作品。クラフトビールは通常賞味期限を3ヶ月に設定しているが、その後の味変を知るのも面白い。



工業技術センターでの試作用に買った麦芽。まずはこれで3リットルほどの麦汁作りから始める。



試作試験とは別に、自宅で醸造する20リットルの発酵タンクと麦芽4リットル。麦汁作りから次なるイメージを膨らませたい。


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1030円 20g

蒸した生姜を乾燥して粉末にしました。お湯や紅茶、コーヒーなどの飲み物に、お料理の香辛料、薬味に、その他、お好みに合わせてご利用下さい。

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